Travis Scott(トラヴィス・スコット)は、アメリカ・テキサス州ヒューストン出身のラッパー/プロデューサーです。歪んだオートチューンの声と、轟音のようなビート。そして観客が一斉に飛び跳ねる「レイジ」と呼ばれるライブで、2010年代後半以降のヒップホップを引っ張ってきました。
ラッパーというより「総合演出家」に近い存在で、音楽だけでなくファッション、ゲーム、ブランドとのコラボレーションまでを自分の世界観でつなげてしまうのが特徴です。
この記事では、経歴を整理したうえで、デビュー作『Rodeo』から2025年の最新作まで、代表曲を1曲ずつ紹介していきます。
Travis Scott(トラヴィス・スコット)とは?
ヒューストンからカクタス・ジャックへ
本名はジャック・ベルモン・ウェブスター2世。1991年4月30日、テキサス州ヒューストンに生まれました。芸名の「Travis」は、幼い頃に慕っていた叔父の名前に由来します。
大学を中退してニューヨーク、そしてロサンゼルスへ。2012年にEpic Recordsと、2013年にはT.I.のGrand Hustleと契約します。カニエ・ウェストの制作チームに加わってプロデューサーとしての腕を磨いたことが、のちの音作りの土台になりました。
2017年には自身のレーベル「Cactus Jack Records」を設立。ドン・トリヴァー、シェック・ウェス、SoFaygoらを抱え、「まずは他のアーティストを助けて、新しい名前を世に出したい」と語っています。
「レイジ」と呼ばれるライブと音作り
トラヴィス・スコットの音楽は、一曲のなかでビートが何度も切り替わる構成が特徴です。『SICKO MODE』のように、まったく別の曲が3つつながっているような作りは、彼が広めた手法のひとつと言っていいでしょう。
もうひとつの武器が、長年の相棒マイク・ディーンらとつくり上げる音像。サイケデリックロックのような広がりと、腹に響く低音が同居した音は「Travis Scottの音」として完全に確立されています。
そしてライブ。観客が一斉に暴れる「レイジ」と呼ばれる光景は彼の代名詞で、遊園地やジェットコースターを持ち込むような大掛かりな演出も含めて、体験そのものを作品にしてしまうタイプのアーティストです。
数字で見るTravis Scott
スタジオアルバムは4枚と、キャリアの長さに対しては多くありません。そのぶん1枚ごとの完成度が高く、『ASTROWORLD』『UTOPIA』はいずれも全米アルバムチャート1位を獲得しています。
全米シングルチャート1位は5曲。『SICKO MODE』(2018年)、『HIGHEST IN THE ROOM』(2019年)、キッド・カディとの『THE SCOTTS』(2020年)、『FRANCHISE』(2020年)、そして『4X4』(2025年)です。
グラミー賞にはこれまで10回ノミネート。2023年の『UTOPIA』は全19曲すべてが全米シングルチャートに入るという記録も残しています。
Travis Scottのおすすめ曲・アルバム
ここからは時系列で、代表曲を1曲ずつ紹介していきます。
1st Album『Rodeo』(2015年)
2015年9月4日リリースのデビューアルバム。カニエ・ウェスト、ザ・ウィークエンド、ヤング・サグ、フューチャー、ジャスティン・ビーバーと、新人離れした客演陣が並びます。
プロデュースにはメトロ・ブーミン、マイク・ディーン、ファレル・ウィリアムスらが参加。ロデオ=見世物としてのショーをコンセプトに据えた、彼の世界観の出発点となる作品です。
初週8万5,000ユニットで全米3位。数字は派手ではありませんでしたが、2024年には2×プラチナ認定を受けており、長く聴かれ続けていることが分かります。
『Antidote』
全米シングルチャート最高16位を記録した、初期最大のヒット曲。当時の彼にとって最高位の曲でした。
ゆらゆら揺れるシンセと、ひたすら繰り返されるフック。深夜のパーティーの空気をそのまま閉じ込めたような1曲で、いまもライブの定番です。まずここから入るのがおすすめ。
収録曲(通常盤)
- Pornography
- Oh My Dis Side (feat. Quavo)
- 3500 (feat. Future & 2 Chainz)
- Wasted (feat. Juicy J)
- 90210 (feat. Kacy Hill)
- Pray 4 Love (feat. The Weeknd)
- Nightcrawler (feat. Swae Lee & Chief Keef)
- Piss on Your Grave (feat. Kanye West)
- Antidote
- Impossible
- Maria I'm Drunk (feat. Justin Bieber & Young Thug)
- Flying High (feat. Toro y Moi)
- I Can Tell
- Apple Pie
2nd Album『Birds in the Trap Sing McKnight』(2016年)
2016年9月2日リリース。初週8万8,000ユニットで、キャリア初の全米アルバムチャート1位を獲得しました。
タイトルについて本人は「ヒューストンで育つなかで感じた、社会的な“罠”のこと」と説明しています。前作より内省的で、全体に霧がかかったような音作りが印象的な1枚です。
アンドレ3000、ケンドリック・ラマー、キッド・カディ、ザ・ウィークエンド、21サヴェージらが参加。2025年4月には4×プラチナ認定を受けています。
『goosebumps (feat. Kendrick Lamar)』
ケンドリック・ラマーを迎えた、アルバム最大のヒット曲。発売当時の最高位は32位でしたが、その後もじわじわ伸び続けて彼の代表曲のひとつになりました。
浮遊感のあるループと、ぼんやりしたフックが癖になる1曲。万華鏡のような映像のMVも有名で、「トラヴィスらしさ」を一番つかみやすい曲かもしれません。
収録曲
- The Ends (feat. André 3000)
- Way Back
- Coordinate (feat. Blac Youngsta)
- Through the Late Night (feat. Kid Cudi)
- Beibs in the Trap (feat. Nav)
- SDP Interlude
- Sweet Sweet
- Outside (feat. 21 Savage)
- Goosebumps (feat. Kendrick Lamar)
- First Take (feat. Bryson Tiller)
- Pick Up the Phone (with Young Thug feat. Quavo)
- Lose
- Guidance (feat. K. Forest)
- Wonderful (feat. The Weeknd)
3rd Album『ASTROWORLD』(2018年)
2018年8月3日リリース。多くのファンが最高傑作に挙げる、キャリアを代表するアルバムです。
タイトルは、ヒューストンにかつて存在した遊園地「シックス・フラッグス・アストロワールド」から。本人は「子どもたちから遊園地を取り上げるようなものだった」と語っており、失われた場所を音で再建するという発想の作品です。
マイク・ディーン、ヒット・ボーイ、WondaGurl、Tame Impala、サンダーキャットらが参加し、ヒップホップの枠を超えたサイケデリックな音像に。初週53万7,000ユニットで全米1位、6×プラチナ認定を受けています。
『SICKO MODE (feat. Drake)』
全米シングルチャート1位を獲得した、彼の最大のヒット曲。ドレイクの落ち着いた歌い出しから、途中で2度もビートがまるごと切り替わるという構成が衝撃的でした。
「1曲のなかで複数の曲が展開する」という作り方は、この曲以降のヒップホップに決定的な影響を与えています。トラヴィス・スコットを1曲だけ聴くなら、まずこれです。
『BUTTERFLY EFFECT』
アルバムに先駆けて2017年に発表された先行シングル。全米最高50位ながら、ファンからの人気は非常に高い1曲です。
ゆったりしたビートの上で、声そのものを楽器のように響かせる歌い方が心地よい曲。派手さで押さない、彼の引き算の上手さが出ています。
収録曲
- STARGAZING
- CAROUSEL (feat. Frank Ocean)
- SICKO MODE (feat. Drake, Swae Lee & Big Hawk)
- R.I.P. SCREW (feat. Swae Lee)
- STOP TRYING TO BE GOD (feat. Kid Cudi, Philip Bailey, James Blake & Stevie Wonder)
- NO BYSTANDERS (feat. Juice WRLD & Sheck Wes)
- SKELETONS (feat. Pharrell Williams, Tame Impala & The Weeknd)
- WAKE UP (feat. The Weeknd)
- 5% TINT
- NC-17 (feat. 21 Savage)
- ASTROTHUNDER
- YOSEMITE (feat. Gunna & Nav)
- CAN'T SAY (feat. Don Toliver)
- WHO? WHAT! (feat. Quavo & Takeoff)
- BUTTERFLY EFFECT
- HOUSTONFORNICATION
- COFFEE BEAN
4th Album『UTOPIA』(2023年)
2023年7月28日リリース。『ASTROWORLD』から5年ぶりとなる作品で、制作は2019年から4年近くにわたりました。
録音はシャングリラ・スタジオ、アビー・ロード、さらにはメルセデス・ベンツ・スタジアムまで。カニエ・ウェスト、ジェームス・ブレイク、メトロ・ブーミン、ジ・アルケミストらが関わり、本人が語ったとおり「サイケデリックロック」寄りの荒々しい音像になっています。
ドレイク、ビヨンセ、ザ・ウィークエンド、バッド・バニー、SZA、プレイボーイ・カーティら客演も豪華。初週49万6,000ユニットで全米1位、さらに収録全19曲が全米シングルチャートにランクインするという結果を残しました。
『FE!N (feat. Playboi Carti)』
全米最高5位。プレイボーイ・カーティを迎えた、アルバムでもっとも話題になった曲です。
「FE!N」というフックをひたすら繰り返すだけ、という潔さが強烈で、ライブでは同じ曲を何度も繰り返し演奏するのが名物に。SNSでも大量に使われ、アルバムの顔になりました。
『MELTDOWN (feat. Drake)』
全米最高3位を記録した、ドレイクとの再共演曲。『SICKO MODE』のコンビが5年ぶりに揃いました。
金属的なビートの上で2人が交互に畳みかける構成。MVはラスベガスのベラージオ噴水で撮影され、公開時に大きな話題になりました。
収録曲
- HYAENA
- THANK GOD
- MODERN JAM (feat. Teezo Touchdown)
- MY EYES
- GOD'S COUNTRY
- SIRENS
- MELTDOWN (feat. Drake)
- FE!N (feat. Playboi Carti)
- DELRESTO (ECHOES) (feat. Beyoncé)
- I KNOW ?
- TOPIA TWINS (feat. Rob49 & 21 Savage)
- CIRCUS MAXIMUS (feat. The Weeknd & Swae Lee)
- PARASAIL (feat. Yung Lean & Dave Chappelle)
- SKITZO (feat. Young Thug)
- LOST FOREVER (feat. Westside Gunn)
- LOOOVE (feat. Kid Cudi)
- K-POP (feat. Bad Bunny & The Weeknd)
- TELEKINESIS (feat. SZA & Future)
- TIL FURTHER NOTICE (feat. James Blake & 21 Savage)
『JACKBOYS 2』(2025年)
2025年7月13日リリース。自身のレーベル、カクタス・ジャック所属メンバーによるコンピレーションアルバムの第2弾です。
ドン・トリヴァー、シェック・ウェス、SoFaygo、ウォーリー・ザ・センセイらレーベル勢に加え、プレイボーイ・カーティ、フューチャー、Tyla、GloRilla、コダック・ブラックらがゲスト参加しています。
初週23万3,000ユニットで全米1位。批評面では賛否が割れましたが(Metacritic 48点)、レーベルとしての勢いを示した作品になりました。
『2000 EXCURSION』
アルバム発売直前の2025年7月8日に公開された先行曲。荒々しいビートと、カクタス・ジャックらしい集団の熱量が詰まった1曲です。
ソロ作とはまた違う、仲間と騒いでいるときの空気が出ているのが面白いところ。レーベルの若手を知るきっかけとしてもおすすめです。
シングルの代表曲
アルバム未収録ながら、彼を語るうえで外せないシングルもあります。
『HIGHEST IN THE ROOM』(2019年)
全米シングルチャートに初登場1位を記録した曲。約2分57秒と短く、暗く沈んだトーンで淡々と進みます。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督作を思わせるような、赤と青の照明が印象的なMVも高評価。彼の美意識がもっとも分かりやすく表れた1曲です。
『FRANCHISE (feat. Young Thug, M.I.A.)』(2020年)
こちらも全米初登場1位。ヤング・サグとM.I.A.という、意外な組み合わせの客演が光ります。
MVの監督はなんとトラヴィス本人。この時期はマクドナルドやナイキとのコラボも重なり、音楽以外でも話題が絶えない絶頂期でした。
『4X4』(2025年)
2025年1月24日リリース。ミーゴスの楽曲をマーチングバンド風に演奏した音源をサンプリングした、勢い重視のトラップナンバーです。
全米シングルチャートに初登場1位を記録し、彼にとって5曲目の1位となりました。プロデュースはTay KeithとFnZ、ミックスはおなじみのマイク・ディーンです。
2021年のアストロワールド・フェスティバル
トラヴィス・スコットを語るうえで、避けて通れない出来事があります。
2021年11月5日、地元ヒューストンで自身が主催した「アストロワールド・フェスティバル」で、彼のステージ中に観客が密集して将棋倒しとなる事故が発生しました。10人が亡くなり、多数の負傷者が出ています。
ヒューストン警察の捜査では、メインステージ前の一角に人が集中しすぎたことが主な要因とされました。約19か月に及ぶ捜査の結果、2023年6月29日にハリス郡の大陪審は、スコットを含む関係者6人について「犯罪は成立せず、特定の個人に刑事責任は問えない」として不起訴と判断しています。一方で、遺族や負傷者による民事訴訟は数多く起こされました。
この事故以降、大規模な音楽フェスにおける観客の安全管理のあり方は、業界全体であらためて議論されることになりました。彼の音楽を聴くうえでも、知っておきたい出来事です。
音楽の外へ — ブランドとゲーム
トラヴィス・スコットは、音楽以外の領域でも独自の存在感を築いてきました。
もっとも有名なのがナイキ/ジョーダンブランドとの協業で、彼が手がけたスニーカーは毎回即完売する定番になっています。ほかにもディオール、プレイステーション、オーデマ・ピゲ、FCバルセロナなど、ジャンルを問わないコラボを重ねてきました。2020年にマクドナルドと組んで発売した「Travis Scott Meal」は、アメリカで社会現象と言えるほどの反響を呼んでいます。
そして2020年4月、ゲーム『フォートナイト』内で開催されたバーチャルライブ「Astronomical」。巨大化したアバターがゲームの世界を歩き回るという演出で、全5公演に延べ2,700万人以上が参加しました。コロナ禍でライブができない時期に、ライブという体験そのものを作り替えてみせた出来事として記憶されています。
近年は映像分野にも進出しており、2024年には『Days Before Rodeo』のリマスター版を配信。2026年公開のクリストファー・ノーラン監督作『オデュッセイア』への出演も伝えられています。
まとめ
トラヴィス・スコットは、曲単位というより「世界観」を作るタイプのアーティストです。ビートが何度も切り替わる構成、轟音のような音像、そして観客ごと巻き込むライブ。そのすべてが一続きになっているところに、ほかにはない強さがあります。
最初の1曲に迷ったら、まずは『SICKO MODE』を。5分のあいだに3回も景色が変わるこの曲を聴けば、彼が何をやっている人なのかが一発で分かります。
そこから『goosebumps』で浮遊感を、『HIGHEST IN THE ROOM』で暗く沈んだ側面を、『FE!N』で最新の熱量を確かめてみてください。アルバムを通して聴くなら、まずは『ASTROWORLD』から。失われた遊園地を音で建て直した、彼の代表作です。
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