SZA(シザ)は、アメリカ・ニュージャージー州育ちのシンガーソングライターです。2017年のデビューアルバム『Ctrl』で一気に評価を確立し、2022年の『SOS』では全米アルバムチャートで通算10週にわたって1位を守り続けました。いまの時代のR&Bを語るときに、まず名前が挙がる存在です。
特徴は、歌の上手さで押すタイプではないところにあります。ささやくような声、意図的に外したような音程、途中で途切れるフレーズ。その不安定さが、書かれている内容——嫉妬、未練、自分への呆れ——とぴったり合っています。R&Bを軸にしながら、ヒップホップからインディーロックまで平然と取り込む雑食性も持ち味です。
この記事では、SZAがどんなアーティストなのかを整理したうえで、アルバムを発表順にたどりながら代表曲を1曲ずつ紹介し、あわせてケンドリック・ラマーやドージャ・キャットとのコラボ曲も取り上げます。「Kill Bill」しか知らない、という方にこそ読んでほしい内容です。
SZA(シザ)とは?
ニュージャージーの内向的な少女が、TDE初の女性アーティストになるまで
SZAの本名はソラーナ・イマニ・ロウ。1989年11月8日にミズーリ州セントルイスで生まれ、ニュージャージー州メイプルウッドで育ちました。母はキリスト教徒、父はイスラム教徒という家庭で、日曜学校とイスラム学校の両方に通ったと語っています。
音楽を仕事にするつもりは、もともとありませんでした。20歳を過ぎてから曲作りを始め、自主制作のEP『See.SZA.Run』を2012年に発表。翌2013年の『S』が注目され、同年7月14日にケンドリック・ラマーらが所属するTop Dawg Entertainment(TDE)と契約します。ヒップホップのレーベルであるTDEにとって、彼女は初の女性アーティストでした。2014年のEP『Z』が初の商業リリースとなり、2017年にはRCA Recordsとも契約しています。
そして2017年、1stアルバム『Ctrl』が届きます。恋愛のなかの惨めさや不安を、飾らずに、ときに笑いながら書いたこの作品は、批評家の年間ベストに並ぶ評価を得ました。グラミー賞では最優秀新人を含む5部門にノミネート。ただ、この時点では受賞はありませんでした。
次の一手までには5年かかります。その間に「All the Stars」「Kiss Me More」といったコラボ曲でヒットを重ね、2022年12月にようやく2枚目の『SOS』を発表。23曲入りの大作は全米1位を長く占め、彼女をR&Bの中心に据え直しました。以降は2024年の『SOS Deluxe: Lana』、ケンドリック・ラマーとの「luther」での2026年グラミー最優秀レコード賞受賞と、規模を拡大し続けています。
プロフィール
| 本名 | ソラーナ・イマニ・ロウ |
| 生年月日 | 1989年11月8日 |
| 出身地 | アメリカ・ミズーリ州セントルイス(育ちはニュージャージー州メイプルウッド) |
| ジャンル | オルタナティヴR&B/ネオソウル |
| レーベル | Top Dawg Entertainment(2013年契約)/RCA Records |
| デビュー | 2012年(EP『See.SZA.Run』)/2017年(1stアルバム『Ctrl』) |
| 主な受賞 | グラミー賞(通算7回受賞) |
| その他の活動 | 俳優(2025年の映画『One of Them Days』) |
アーティスト名の「SZA」は、ファイヴ・パーセント・ネイションの「シュプリーム・アルファベット」に由来します。ウータン・クランのRZAやGZAから発想を得たもので、「S」は救世主あるいは主権者、「ZA」はジグザグとアッラーを指すと本人が説明しています。
数字で見るSZA
『Ctrl』はBillboard 200の3位デビューでしたが、その後も売れ続けてRIAAで6×プラチナ認定に達しました。2022年の『SOS』は初週31万8,000ユニットで1位に入り、通算10週にわたって首位。2025年のデラックス版の反響で11週目の1位も記録しています。
シングルでは、2023年の「Kill Bill」が初のHot 100首位。ケンドリック・ラマーとの「luther」は13週にわたって1位を占め、2026年のグラミー賞で最優秀レコード賞を受賞しました。グラミー賞は通算7回受賞で、そのうち『SOS』が最優秀プログレッシヴR&Bアルバム、「Snooze」と「Saturn」がそれぞれ最優秀R&Bソングを獲得しています。
SZAのおすすめ曲・アルバム
ここからは、2枚のアルバムとそのデラックス版を発表順にたどり、最後に他のアーティストとのコラボ曲をまとめて紹介します。
1st Album『Ctrl』(2017年)
2017年6月9日リリースのデビューアルバムです。初週6万ユニット(うち実売2万枚)でBillboard 200の3位に入りました。派手なスタートではありませんでしたが、その後も長く聴かれ続け、RIAAでは6×プラチナに達しています。2018年のグラミー賞では、最優秀新人を含む5部門にノミネートされました。
テーマは、20代の恋愛のなかで感じるどうしようもなさです。相手の一番になれない自分、比べてしまう癖、それを自覚しているのに止められないこと。オルタナティヴR&Bとネオソウルを軸に、ヒップホップやインディーロックの手触りが混ざった音の上で、日記のような言葉が並びます。母親や祖母の語りが曲の合間に挿入されているのも印象的な仕掛けです。
『Love Galore』
2017年4月28日リリースのシングルで、トラヴィス・スコットを迎えた曲です。Hot 100では30位に入り、彼女にとって最初の大きなヒットになりました。
軽く跳ねるビートに乗せて、終わったはずの関係を切れずにいる状態を歌います。責めるでもなく開き直るでもない、あいまいな距離感の書き方が『Ctrl』らしい1曲です。
『The Weekend』
2017年9月26日リリース。Hot 100では29位。グラミー賞の最優秀R&Bパフォーマンス部門にノミネートされた曲です。
「平日はあなたのもの、週末はわたしの番」という、三角関係の当事者の立場から書かれた曲です。マイケル・ジャクソンの「It’s the Falling in Love」を引用した音作りで、際どい内容をあくまで涼しい顔で歌い切ります。
『Drew Barrymore』
2017年1月13日にアルバムに先駆けて発表された曲です。Hot 100には入りませんでしたが、批評家から高く評価され、彼女の代表曲のひとつになりました。
俳優のドリュー・バリモアを引き合いに、自分の平凡さや情けなさを並べていく曲。「わたしはこんな女でごめん」と繰り返す歌詞の生々しさが、多くのリスナーに自分の話として受け取られました。
収録曲
- Supermodel
- Love Galore (featuring Travis Scott)
- Doves in the Wind (featuring Kendrick Lamar)
- Drew Barrymore
- Prom
- The Weekend
- Go Gina
- Garden (Say It like Dat)
- Broken Clocks
- Anything
- Wavy (Interlude) (featuring James Fauntleroy)
- Normal Girl
- Pretty Little Birds (featuring Isaiah Rashad)
- 20 Something
2nd Album『SOS』(2022年)
2017年から5年を置いて、2022年12月9日に発表された2作目です。初週31万8,000ユニットでBillboard 200の1位に入り、通算10週にわたって首位を守りました。23曲という長さで、2024年のグラミー賞では9部門にノミネートされ、最優秀プログレッシヴR&Bアルバムを受賞しています。
『Ctrl』が内側に沈んでいく作品だったのに対して、『SOS』は感情の振れ幅がはっきり外に出ます。復讐の妄想、未練、自己嫌悪、そして開き直り。曲ごとにR&B、ポップパンク、フォーク、ヒップホップと衣装を変え、フィービー・ブリジャーズやオール・ダーティ・バスタードといった意外な名前が並ぶのもこのアルバムの面白さです。
『Good Days』
2020年12月25日、アルバムより2年も先に発表された曲です。Hot 100で9位に入り、長い沈黙のなかで彼女の存在を保ち続けた1曲になりました。
ふわりとしたギターとコーラスで進む曲で、「いい日もあるはず」と自分に言い聞かせるような歌です。派手な展開はありませんが、彼女の声の質感がいちばんよく分かる曲かもしれません。
『Kill Bill』
2023年1月10日にシングルカットされ、Hot 100で1位を獲得しました。彼女にとって初の全米首位曲です。
「元恋人とその新しい相手を殺してしまうかもしれない」という妄想を、映画『キル・ビル』に重ねて淡々と歌う曲。物騒な内容なのに音は驚くほど穏やかで、そのずれが強い中毒性を生んでいます。彼女の最も有名な曲です。
『Snooze』
2023年4月25日リリース。Hot 100のトップ10に入り、2024年のグラミー賞で最優秀R&Bソングを受賞しました。
「あなたが起きていないと眠れない」という執着を、あくまで甘い音で包んだ曲です。攻撃性の強い「Kill Bill」の裏側にある、離れられない側の感情を担当している曲だといえます。
『Nobody Gets Me』
2023年1月6日にシングルカットされ、Hot 100のトップ10に入りました。アルバムのなかでもっとも静かな曲のひとつです。
アコースティックギターだけを伴奏に、「誰もわたしを分かってくれない」と歌うフォーク寄りの曲です。R&Bの枠から明確に外れていて、『SOS』の振れ幅の大きさを象徴する1曲になっています。
『Shirt』
2022年10月28日リリース、Hot 100では11位。2020年10月にInstagramで断片が公開されたあとTikTokで踊りが流行し、2年越しに正式な音源として発表された曲です。
暗く沈んだビートの上で、シャツについた跡という具体物から関係の終わりを描きます。デイヴ・マイヤーズが監督したミュージックビデオには俳優のラキース・スタンフィールドが出演し、タランティーノ映画を思わせる犯罪劇として作られています。
収録曲
- SOS
- Kill Bill
- Seek & Destroy
- Low
- Love Language
- Blind
- Used (featuring Don Toliver)
- Snooze
- Notice Me
- Gone Girl
- Smoking on My Ex Pack
- Ghost in the Machine (featuring Phoebe Bridgers)
- F2F
- Nobody Gets Me
- Conceited
- Special
- Too Late
- Far
- Shirt
- Open Arms (featuring Travis Scott)
- I Hate U
- Good Days
- Forgiveless (featuring Ol' Dirty Bastard)
『SOS Deluxe: Lana』(2024年)
2024年12月20日に発表されたデラックス版で、『SOS』に15曲が追加されました。2025年2月9日にはさらに4曲を足した拡張版も出ています。この追加分の反響で『SOS』はBillboard 200の1位に戻り、Lana分だけで17万8,000ユニットを稼ぎました。
追加曲は本編のこぼれ球ではなく、独立した作品として語られることが多い15曲です。ケンドリック・ラマーを迎えた「30 for 30」(2025年1月にシングル化、Hot 100で10位)や、ラジオ向けに切られた「BMF」も含まれています。
『Saturn』
2024年2月22日に先行して発表された曲で、Hot 100では6位。2025年のグラミー賞で最優秀R&Bソングを受賞しました。
「この星のやり方には無理がある、土星に行きたい」という発想の曲です。土星の輪をなぞるようなシンセの音作りで、SFの装いをまといながら結局は現実への疲れを歌っています。
『Drive』
デラックス版と同時の2024年12月20日に発表されたプロモーショナル・シングルです。
ゆったりしたテンポで運転中の思考をなぞっていく曲。派手なフックを置かず、声とビートの相性だけで聴かせる作りで、Lanaの落ち着いた質感を代表する1曲です。
追加収録曲(Lana)
- No More Hiding
- What Do I Do
- 30 for 30 (featuring Kendrick Lamar)
- Diamond Boy (DTM)
- BMF
- Scorsese Baby Daddy
- Love Me 4 Me
- Chill Baby
- My Turn
- Crybaby
- Kitchen
- Get Behind Me (Interlude)
- Drive
- Another Life
- Saturn
コラボレーション|他のアーティストとの代表曲
SZAは客演でのヒットが非常に多いアーティストです。とくにケンドリック・ラマーとの相性の良さは、TDE時代から一貫しています。ここでは代表的な3曲を取り上げます。
『All The Stars』
2018年、映画『ブラックパンサー』のサウンドトラックのためにケンドリック・ラマーと制作した曲です。Hot 100では7位。
壮大なコーラスと、抑えたヴァースの対比で進む曲です。映画の規模に見合うスケールを持ちながら、歌っている内容は身近な裏切りへの怒り。SZAの声が広い場所でどう鳴るかを最初に示した曲でもあります。
『Kiss Me More』
2021年4月9日リリース、ドージャ・キャットの曲への客演です。Hot 100で3位まで上がり、2022年のグラミー賞で最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスを受賞しました。SZAにとって初のグラミー受賞曲です。
軽やかなディスコ調のトラックで、二人の声質の違いがそのまま曲の起伏になっています。アメリカのチャート史で、女性だけによるトップ10ヒットとしては最長のチャートインを記録した曲でもあります。
『luther』
ケンドリック・ラマーのアルバム『GNX』からの曲で、Hot 100では13週にわたって1位を占めました。2026年のグラミー賞で最優秀レコード賞を受賞し、SZAにとって初の主要部門受賞となりました。
曲名はソウルの巨人ルーサー・ヴァンドロスから取られ、1982年のシェリル・リンとのデュエット「If This World Were Mine」がサンプリングされています。穏やかなトラックの上で二人が交互に歌う構成で、2025年の彼女の活動の中心にあった曲です。
ステージの外での動き|俳優デビューと大規模ツアー
2025年、SZAは俳優としても本格的に動き出しました。キキ・パーマーと共演したコメディ映画『One of Them Days』が公開され、評価も上々でした。歌手が余技で出演したという扱いではなく、主演の一角としての仕事です。
ライブの規模も一段変わりました。2025年にケンドリック・ラマーと回った「Grand National Tour」は、共同ヘッドライナー形式のツアーとしては史上最高の興行収入を記録しています。同年2月には、ケンドリック・ラマーがつとめたスーパーボウルLIXのハーフタイムショーにもゲストとして登場しました。
内向的な性格や、ライブへの不安を公言してきた人が、世界最大級の舞台に立つところまで来た——という点も、彼女のキャリアの面白さです。作品の中で自信のなさを書き続けてきたことと、この規模の活動は、矛盾しているようで地続きになっています。
日本との関わり|フジロック2024の出演キャンセル
日本での知名度に対して、SZAのライブを日本で観る機会はまだ訪れていません。2024年の「FUJI ROCK FESTIVAL」で初日(7月26日)のヘッドライナーとして出演が発表され、初来日として大きな話題になりましたが、開催前の2024年5月28日に「アーティストの都合により」出演がキャンセルされました。
代役として初日のヘッドライナーを務めたのはザ・キラーズでした。SZAの単独公演を望む声はその後も続いていて、日本での人気の高さは、この一件でかえって可視化されたところがあります。
日本語版のリリック・ビデオが公開されるなど、日本市場向けの展開は行われています。ケンドリック・ラマーとの「Grand National Tour」もアジアには回っていないため、日本での公演は今後の課題として残っています。
まとめ|まずはこの3曲から
SZAは、うまく歌うことよりも、正確に感情を写すことを選んできたアーティストです。だからこそ、聴き手は歌に自分の話を重ねやすい。デビューから10年近く経っても、書いている内容の距離感が変わらないところが、いちばんの強みだといえます。
これから聴き始めるなら、まずは「Kill Bill」「Snooze」「luther」の3曲から。物騒な妄想を穏やかに歌う曲、執着を甘く包んだ曲、そして誰かと並んだときの歌の強さが、それぞれ1曲でつかめます。ここが引っかかったなら「Good Days」「The Weekend」まで進んでみてください。
アルバムを1枚選ぶなら、まずは『Ctrl』。14曲で彼女の書き方の芯が分かります。曲数の多さを楽しめるなら『SOS』、落ち着いた質感が好みなら『SOS Deluxe: Lana』の追加曲から入るのもおすすめです。


