Morgan Wallen(モーガン・ウォレン)は、いまアメリカでもっとも売れているカントリー・シンガーです。テネシー州の人口2,000人に満たない町で生まれた男が、マレットヘアとしゃがれた声を武器に、カントリーという枠を飛び越えてポップスの中心にまで届いてしまった——ここ数年の洋楽シーンで、これほど極端な成功を収めた人はほとんどいません。
その音楽は、いわゆる「渋いカントリー」とは少し違います。ヒップホップのビート感覚とR&Bのメロディを当たり前のように取り込み、歌っている中身は失恋、酒、地元への未練といった、どこまでも身近な話。この「音は今っぽいのに、感情は素朴」というバランスが、カントリーを聴いてこなかった層まで巻き込みました。
この記事では、モーガン・ウォレンがどんなアーティストなのかを整理したうえで、4枚のスタジオアルバムを発表順にたどりながら代表曲を1曲ずつ紹介していきます。ポスト・マローンとの「I Had Some Help」で名前を知った、という方にもおすすめの内容です。
Morgan Wallen(モーガン・ウォレン)とは?
テネシーの田舎町から、オーディション番組を経てナッシュビルへ
モーガン・ウォレンは1993年5月13日、アメリカ・テネシー州スニードヴィル生まれ。本名はモーガン・コール・ウォレンです。父は地元の教会で牧師を務めた時期があり、母は教師という家庭で育ちました。その後は南のノックス郡へ移り、ギブス高校に通っています。
意外なことに、彼が最初に本気で打ち込んだのは音楽ではなく野球でした。高校では投手と遊撃手を務め、大学でも続けるつもりだったものの、最終学年で肘の靭帯を断裂。この故障で野球の道が絶たれます。卒業後は造園業で働きながら、行き場のない気持ちのはけ口として音楽に戻り、18歳で独学のギターを始めました。
幼い頃はピアノとバイオリンを習い、父の影響でクラシック・ロックを浴びて育ち、10代ではBreaking BenjaminやNickelbackといったロック、さらにLil Wayneのようなヒップホップにも夢中になっています。カントリーに本格的にのめり込んだのはこの時期で、Keith WhitleyやEric Churchの系譜に自分の音を寄せていきました。のちの雑食的な作風は、この聴き方がそのまま出たものです。
転機は2014年、オーディション番組『The Voice』シーズン6への出場でした。Howie Dayの「Collide」で審査員のUsherとShakiraの目に留まり、Usherチームへ。その後Adam Levineのチームに移りますが、プレーオフで敗退します。優勝こそ逃したものの、番組を通じて業界とのつながりを得たことが決定的でした。ナッシュビルに拠点を移し、2015年にPanacea Recordsから初のEP『Stand Alone』を発表。その後、インディペンデント・レーベルのBig Loudと契約し、ここから本格的なキャリアが始まります。
プロフィール
| 本名 | モーガン・コール・ウォレン(Morgan Cole Wallen) |
| 生年月日 | 1993年5月13日 |
| 出身地 | アメリカ・テネシー州スニードヴィル |
| ジャンル | カントリー、カントリー・ポップ |
| デビュー | 2015年(EP『Stand Alone』)/2018年(1stアルバム『If I Know Me』) |
| 所属レーベル | Big Loud / Republic / Mercury |
| 主なプロデューサー | Joey Moi |
| その他の活動 | ナッシュビルの飲食店「This Bar & Tennessee Kitchen」経営、アイスティー会社The Ryl Companyの共同創業 |
カントリーとヒップホップが同居する音楽性
モーガン・ウォレンの曲を初めて聴くと、「これはカントリーなのか?」と戸惑うかもしれません。スティール・ギターやアコースティックの響きは確かにカントリーのものですが、その下で鳴っているリズムはヒップホップやトラップに近く、歌い回しにもR&Bの粘り気があります。長年の相棒であるプロデューサーJoey Moiが、この折衷を一貫して形にしてきました。
歌詞のほうは対照的に、驚くほど素朴です。飲みすぎた翌朝、別れた相手への未練、地元の町から離れられない自分、酒場のカウンターでの独り言——扱う題材はカントリーの王道そのもの。新しいサウンドに古い感情を乗せる、というのが彼のやり方です。
見た目のインパクトも無視できません。父親の若い頃の写真を見て真似たというマレットヘアは、いまや彼のトレードマーク。『The New Yorker』のケレファ・サネーは、彼のスタイルを「普通の人のロックスター」「歌手というより一つのキャラクター」と評しています。TikTokを中心に人気が爆発した背景には、この分かりやすい「絵になる存在感」もありました。
数字で見るモーガン・ウォレン
彼の異常さは、チャートの記録に端的に表れています。2枚目『Dangerous: The Double Album』は、リリース後7週連続でBillboard 200の首位をキープ。カントリー作品としては前例のない記録で、最初の10週を1位で走り抜けた作品としては、ホイットニー・ヒューストンの『Whitney』以来30年以上ぶりの快挙でした。
3枚目『One Thing at a Time』は、Billboard 200で通算19週の1位を記録し、2023年の年間アルバムチャートでも1位。同作からの「Last Night」はHot 100で通算16週1位となり、2023年の年間シングルチャートでも首位に立ちました。ソロ男性のカントリー歌手がHot 100の頂点に立ったのは、1981年のエディ・ラビット以来という長いブランクを破った出来事です。
シングル「You Proof」はCountry Airplayチャートで通算10週1位となり、同チャート史上最長記録を樹立。2024年にはCMAアワードの最高賞であるエンタテイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。さらに4枚目『I’m the Problem』のリリース週には、Hot 100に37曲を同時にチャートインさせ、カントリー勢として初めて通算100エントリーを突破しました。
Morgan Wallenのおすすめ曲・アルバム
ここからは、スタジオアルバム4枚をデビュー順にたどりながら、それぞれの代表曲を紹介していきます。最後に、ジャンルを越えたコラボ曲もまとめました。
1st Album『If I Know Me』(2018年)
2018年4月27日リリースのデビューアルバム。プロデュースはJoey Moiが担当し、Florida Georgia Lineがゲスト参加しています。全14曲、いま聴くと後年の作品よりずっとオーソドックスなカントリー・ポップで、彼の「歌の上手さ」が素直に出ている一枚です。
リリース直後の反応は爆発的ではありませんでしたが、シングルが順に効いていき、Top Country Albumsチャートでは実に114週かけて1位に到達。Billboard 200でも最高10位まで上がりました。時間をかけて売れ続けたという意味で、彼のキャリアを象徴するアルバムでもあります。
『Up Down (feat. Florida Georgia Line)』
当時すでに人気絶頂だったFlorida Georgia Lineを迎えた、初期の代表曲。Country Airplayチャートで1位、Hot Country Songsで5位を記録し、彼の名前を全国区にした一曲です。ビーチでひたすら騒ぐミュージックビデオも含めて、内容は徹底して能天気。まずは肩の力を抜いて聴ける入口としておすすめです。
『Whiskey Glasses』
失恋した男が「ウイスキー・グラス越しに世界を見せてくれ」と酒に逃げ込む曲。Hot Country SongsとCountry Airplayの両方で1位を獲得し、Hot 100でも17位と、初めてジャンルの外まで届いたシングルになりました。前述のケレファ・サネーは本曲を彼の代表曲と呼び、「女と酒に捧げた、完璧に組み立てられた頌歌」と評しています。サビでの声の張り上げ方は、いまもライブの最大の見せ場です。
『Chasin’ You』
2019年7月にシングルカットされたバラード。Hot Country Songsで最高2位を記録し、こちらも年間チャートの上位に食い込みました。手が届かない相手を追いかけ続ける心情を、野生の馬を追う情景に重ねた歌詞が秀逸で、彼の書き手としての実力がはっきり出ています。派手さはありませんが、アルバムの中でもっとも長く聴ける一曲かもしれません。
収録曲
- Up Down (feat. Florida Georgia Line)
- Happy Hour
- Had Me by Halftime
- Whiskey Glasses
- Whatcha Know 'Bout That
- Redneck Love Song
- Little Rain
- If I Know Me
- Chasin' You
- The Way I Talk
- If I Ever Get You Back
- Gone Girl
- Not Good at Not
- Talkin' Tennessee
2nd Album『Dangerous: The Double Album』(2021年)
2021年1月8日リリース。タイトルどおりの2枚組で、全30曲・収録時間は96分を超えます。コロナ禍で時間ができたことが逆に作用し、書き溜めた曲がそのまま大作になりました。カントリーを軸にしながら、R&B寄りのバラードやポップ寄りのメロディが大量に混ざり込んでいるのが特徴です。
商業的な結果は圧倒的でした。全米・カナダの両方で初登場1位を獲得し、Billboard 200では7週連続の首位を維持。カントリー作品が新作でこれを達成したのは、1992年のガース・ブルックス『The Chase』以来のことでした。リリース翌週にはHot Country Songsのトップ10に自身の6曲を同時に送り込み、Hot 100にも19曲が同時チャートイン。ファンからは今も「最高傑作」として挙げられることの多い一枚です。
『More Than My Hometown』
2020年5月にリリースされた先行シングル。都会に出ていく恋人と、地元を離れられない自分。「君を愛しているけれど、地元以上には愛せない」という残酷なほど正直な結論を歌います。カントリーが繰り返し扱ってきた「故郷から離れられない男」というテーマを、言い訳せずに突きつけたのがこの曲の強さです。Country Airplayチャートで1位を獲得しました。
『7 Summers』
当初アルバムに入れる予定のなかった曲でしたが、SNSに流したデモが話題になり、急遽収録が決まったという経緯を持ちます。7年前のひと夏の恋を思い出す内容で、サスペンデッド・コードを効かせたギターの重ね方がカントリーというよりソフト・ロックに近い手触り。Hot Country Songsで初登場1位、Hot 100でも初登場6位となり、彼にとって初のHot 100トップ10入りとなりました。『TIME』誌の年間ベストソングにも選出されています。
『Wasted On You』
アルバム発売と同時にHot Country Songsで1位に立ち、後に2022年3月、正式なシングルとしてカントリー・ラジオへ送られた曲。「君に費やした時間が全部無駄だった」という恨み節を、驚くほど穏やかなメロディで歌うギャップが効いています。Hot 100でもトップ10入りを果たし、『Dangerous』の息の長さを決定づけた一曲です。
『Sand In My Boots』
アルバムの1曲目にして、ファン人気が特に高い曲。海辺で出会った女性との一夜が忘れられず、ブーツに入った砂だけを持ち帰った——という情景描写だけで全編が構成されています。2021年8月にシングルとしてラジオ解禁され、これが後述する騒動からの復帰の合図にもなりました。
収録曲
- Sand in My Boots
- Wasted on You
- Somebody's Problem
- More Surprised than Me
- 865
- Warning
- Neon Eyes
- Outlaw (feat. Ben Burgess)
- Whiskey'd My Way
- Wonderin' 'bout the Wind
- Your Bartender
- Only Thing That's Gone (feat. Chris Stapleton)
- Cover Me Up
- 7 Summers
- More Than My Hometown
- Still Goin' Down
- Rednecks, Red Letters, Red Dirt
- Dangerous
- Beer Don't
- Blame It on Me
- Somethin' Country
- This Bar
- Country Ass Shit (feat. Ben Burgess)
- Whatcha Think of Country Now
- Me on Whiskey
- Need a Boat
- Silverado for Sale (feat. Chris Stapleton)
- Heartless (Wallen Album Mix)
- Livin' the Dream
- Quittin' Time
3rd Album『One Thing at a Time』(2023年)
2023年3月3日リリース。全36曲、収録時間は111分を超え、前作をさらに上回る物量になりました。主な録音場所はロンドンのアビイ・ロード・スタジオ第2スタジオという、カントリーのアルバムとしては異例の選択です。ゲストにEric Church、Hardy、Ernestを迎えています。
「単調すぎる」という批評も出ましたが、チャートでの結果は前作以上でした。Billboard 200に初登場1位で入ると最初の12週を1位で走り、通算では19週の首位を記録。2023年の年間アルバムチャートでも1位を獲得しています。同年、彼はスタジアム規模の「One Night at a Time World Tour」に踏み出しました。
『Last Night』
彼のキャリアを決定づけた一曲であり、いまのところ最大のヒットです。喧嘩して別れると言い合っても結局また戻ってしまう二人を描いた曲で、Hot 100で通算16週1位を記録。単独名義の楽曲としては歴代2位タイという長さで、2023年の年間シングルチャートでも1位でした。ソロ男性のカントリー歌手によるHot 100制覇は1981年以来という歴史的な出来事でもあります。第66回グラミー賞では最優秀カントリー・ソングにノミネートされました。
『You Proof』
2022年5月に先行公開され、7月にカントリー・ラジオへ。「どんな酒を飲んでも君には効かない(=君に耐性がつかない)」という言葉遊びを軸にした失恋ソングです。Country Airplayチャートで通算10週1位を記録し、これは同チャート史上最長の記録。Hot 100でも自身初のトップ5入りを果たし、アルバムの方向性を先に示した一曲となりました。
『Thinkin’ Bout Me』
2023年9月にシングルカットされた曲。別れた相手が自分のことを考えていてほしい、という未練を、抑制の効いたトラックに乗せて歌います。プロデュースにはJoey MoiとCharlie Handsomeが参加しており、ヒップホップ的なビート処理とカントリーの歌唱がもっとも自然に噛み合った例のひとつ。彼の音楽性を一曲で説明したいときに、まず挙げたくなる曲です。
『Man Made A Bar (feat. Eric Church)』
2023年11月にシングルとして発表された、Eric Churchとのデュエット。ウォレンが10代の頃に手本にしたと語る先輩との共演です。「神が土を作り、人は酒場を作った」という発想から、逃げ場としてのバーを歌い上げる骨太なバラードで、アルバムの中でもっともクラシックなカントリーに寄った一曲。ポップ寄りの曲だけを聴いてきた人ほど驚くはずです。
収録曲
- Born with a Beer in My Hand
- Last Night
- Everything I Love
- Man Made a Bar (feat. Eric Church)
- Devil Don't Know
- One Thing at a Time
- '98 Braves
- Ain't That Some
- I Wrote the Book
- Tennessee Numbers
- Hope That's True
- Whiskey Friends
- Sunrise
- Keith Whitley
- In the Bible (feat. Hardy)
- You Proof
- Thought You Should Know
- F150-50
- Neon Star (Country Boy Lullaby)
- I Deserve a Drink
- Wine into Water
- Me + All Your Reasons
- Tennessee Fan
- Money on Me
- Thinkin' Bout Me
- Single Than She Was
- Days That End in Why
- Last Drive Down Main
- Me to Me
- Don't Think Jesus
- 180 (Lifestyle)
- Had It
- Cowgirls (feat. Ernest)
- Good Girl Gone Missin'
- Outlook
- Dying Man
4th Album『I’m the Problem』(2025年)
2025年5月16日リリースの最新作。全37曲・約117分と、収録曲数・長さともに自身の最大規模を更新しました。前作がアビイ・ロード録音だったのに対し、今作はナッシュビル郊外にある自身の農場で書かれ、録音されています。ゲストにはTate McRae、Eric Church、Hardy、Ernest、Post Maloneが参加。
Billboard 200に初登場1位で登場し、3作連続の首位獲得。発売週にはHot 100に37曲が同時チャートインし、うち「What I Want」「Just in Case」「I’m the Problem」「I Got Better」「Superman」「Love Somebody」の6曲がトップ10を占めるという、カントリー勢として前例のない事態を起こしました。この週で通算チャートエントリー数が100を突破しています。
『Love Somebody』
2024年10月にリリースされ、Hot 100に初登場1位で入った曲。彼にとって通算3曲目、そして2度目の「初登場での1位」でした。誰かを本気で好きになることへの怖さと期待を、跳ねるようなリズムに乗せて歌います。アルバム全体の中では最もポップ寄りで、カントリーを普段聴かない人にも刺さりやすい一曲です。
『What I Want (feat. Tate McRae)』
カナダのポップ・シンガー、Tate McRaeを迎えたデュエット。ウォレンが女性シンガーと組んだのはこれが初めてで、発表前から相手が誰かをめぐって大きな話題になりました。アルバムと同時に公開されるとHot 100に初登場1位で入り、ウォレンにとって4曲目、マクレーにとっては初の全米1位に。カントリーとポップの垣根がどこまで低くなったかを示す象徴的な一曲です。
『I’m the Problem』
2025年1月末に先行公開されたタイトル曲。うまくいかない原因が自分にあると認めてしまう、身も蓋もない自己申告のような歌です。3月にはこの曲と「Just in Case」を携えて『サタデー・ナイト・ライブ』に音楽ゲストとして出演しました。アルバムのテーマを最初に提示した曲であり、ここ数年の彼の立ち位置をそのまま言葉にしたタイトルでもあります。
収録曲
- I'm the Problem
- I Got Better
- Superman
- What I Want (with Tate McRae)
- Just in Case
- Interlude
- Falling Apart
- Skoal, Chevy, and Browning
- Eyes Are Closed
- Kick Myself
- 20 Cigarettes
- TN
- Missing
- Where'd That Girl Go
- Genesis
- Revelation
- Number 3 and Number 7 (with Eric Church)
- Kiss Her in Front of You
- If You Were Mine
- Don't We
- Come Back as a Redneck (with Hardy)
- Love Somebody
- Dark Til Daylight
- The Dealer (with Ernest)
- Leavin's the Least I Could Do
- Jack and Jill
- I Ain't Comin' Back (with Post Malone)
- Nothin' Left
- Drinking Till It Does
- Smile
- Working Man's Song
- Whiskey in Reverse
- Crazy Eyes
- LA Night
- Miami
- Lies Lies Lies
- I'm a Little Crazy
ジャンルを越えたコラボ曲
モーガン・ウォレンの影響力がカントリーの外にまで及んでいることは、他ジャンルのアーティストとの共演に最もはっきり表れています。ここでは代表的な2曲を紹介します。
『I Had Some Help (Post Malone feat. Morgan Wallen)』
ポスト・マローンがカントリーに本格参入したアルバム『F-1 Trillion』の先行シングルとして、2024年5月にリリース。「こうなったのは俺一人のせいじゃない、手伝ってくれた奴がいる」と責任をなすりつけ合う歌詞が痛快です。Hot 100とHot Country Songsの両方で初登場1位を記録し、そのまま最初の5週を両チャートで1位という史上初の記録を打ち立てました。2024年のソング・オブ・ザ・サマーにも選出されています。彼の名前を日本で一気に広めたのも、おそらくこの曲です。
『Broadway Girls (Lil Durk feat. Morgan Wallen)』
2021年12月にリリースされた、シカゴのラッパーLil Durkとの共演曲。ナッシュビルの繁華街ブロードウェイの女性たちを歌ったヒップホップ/カントリー・ドリルで、ウォレンがトラップのビートに乗せて歌ったのはこれが初めてでした。Hot 100でトップ15入りを果たし、カントリーとヒップホップの越境という点で早い時期の重要な事例になっています。両者は後にLil Durkのアルバム『Almost Healed』収録の「Stand by Me」で再共演しました。
差別発言の騒動と、その後のキャリア
彼を語るうえで避けて通れないのが、2021年2月の一件です。TMZが公開した動画に、飲み歩いた帰りに友人へ人種差別的な言葉を投げかけるウォレンの姿が映っていました。本人はすぐに声明を出して謝罪しますが、反応は苛烈でした。複数のラジオ局が楽曲のオンエアを停止し、Apple Music・Spotify・Pandoraの公式プレイリストから外され、CMTとカントリー・ミュージック協会は関連コンテンツを削除。所属のBig Loudは契約を無期限で停止し、ACMアワードでは本人と『Dangerous』が対象外とされました。
同年4月、彼は自身を諫めてくれた20人の名義で、Black Music Action Coalitionに30万ドルを寄付。7月には『グッド・モーニング・アメリカ』に出演し、「間違っていた」と改めて自らの言葉を認めています。カントリー・ラジオへの復帰は同年8月、「Sand in My Boots」のシングルリリースからでした。
一方で、騒動の直後に『Dangerous』の売上がかえって急増したという事実もあります。週によっては前週比100%超の伸びを見せ、結果的に7週にわたって首位に居座り続けました。この「批判が売上に直結しない」現象は、アメリカの音楽業界と社会の分断を象徴する出来事として、その後も繰り返し議論されています。
トラブルはその後もありました。2024年4月には、Eric Churchが開いたナッシュビルのバー「Chief’s」の屋上から椅子を投げ落とし、逮捕されています。椅子は警察官2人の近くに落下し、重過失危険行為などで訴追されました。同年12月に軽罪2件について有罪を認め、7日間の教育プログラムと2年間の保護観察という判決を受けています。
それでも評価は下がりませんでした。2024年のCMAアワードでは7部門にノミネートされ、最高賞であるエンタテイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞(本人は欠席し、プレゼンターのジェフ・ブリッジスが冗談まじりに代理で受け取っています)。ナッシュビルには自身の名を冠した6階建ての飲食店をオープンし、ツアーはアリーナからスタジアムへと規模を拡大。作品と数字の面では、いまも登り続けているのが現状です。
まとめ
モーガン・ウォレンは、カントリーというジャンルの内側にとどまらなかったからこそ、ここまで大きくなったアーティストです。ヒップホップのビートとR&Bのメロディを臆面もなく取り込みながら、歌っている中身は失恋と酒と故郷という、100年前から変わらないカントリーの主題。この組み合わせが、ジャンルの壁を越えて刺さりました。
最初の1曲に迷ったら、まずは「Last Night」を聴いてみてください。彼の最大のヒットであり、いまのカントリーがどんな音になっているのかが3分弱で分かります。そこからポップ寄りに広げたいなら「Love Somebody」や「What I Want」、逆に骨太なカントリーが聴きたいなら「Man Made A Bar」や「Sand in My Boots」へ進むのがおすすめです。
アルバムで通して聴くなら、まずは『Dangerous: The Double Album』を。30曲と長さはありますが、彼の魅力がもっとも均等に散らばった一枚で、ファンからの評価も最も高い作品です。そのうえで最新形を知りたければ『I’m the Problem』へ進んでください。
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