Doja Cat(ドージャ・キャット)は、アメリカ・ロサンゼルス出身のラッパー、シンガーです。牛の着ぐるみのような自主制作動画「Mooo!」でインターネットの話題をさらった人が、そのまま全米1位のヒットを連発し、いまではアリーナやフェスのヘッドライナーを務める規模まで来ました。
強みは、ラップと歌のどちらでも成立してしまうところです。ポップスとしての口当たりの良さと、ヒップホップとしての手数の多さを同じ曲に同居させる技術があり、そのうえで作品ごとに音を大きく作り替えます。ポップに寄った『Planet Her』とラップに振り切った『Scarlet』を並べて聴くと、同じ人の作品とは思えないほどです。
この記事では、ドージャ・キャットがどんなアーティストなのかを整理したうえで、アルバムを発表順にたどりながら代表曲を1曲ずつ紹介していきます。「Say So」や「Kiss Me More」で知った、という方にこそ読んでほしい内容です。
Doja Cat(ドージャ・キャット)とは?
インターネットから出てきたラッパー
本名はアマラ・ラトナ・ザンディール・ドラミニ。1995年10月21日、ロサンゼルスのターザナ生まれです。父はブロードウェイ版『サラフィナ!』に出演した南アフリカ出身の俳優ドゥミサニ・ドラミニ、母はユダヤ系アメリカ人のグラフィックデザイナー、デボラ・ソーヤー。5歳までニューヨーク州ライで暮らし、8歳のころにカリフォルニア州アゴーラヒルズへ移り、その後オークパークで育ちました。
芸術系の高校に通いましたが16歳で中退。SoundCloudに曲を上げ始め、17歳でDr. Lukeが率いるKemosabe Records/RCA Recordsと契約します。芸名の「Doja」については、当時のライフスタイルに関わる言葉が「女の子の名前のように聞こえた」からだと本人が説明しています。
2014年にEP『Purrr!』、2018年に1stアルバム『Amala』を発表しますが、名前が一気に広まったきっかけは音楽業界の外からでした。2018年8月、自宅で撮ったような「Mooo!」の動画がインターネットで爆発的に拡散したのです。ふざけた曲で知られた人が、翌2019年の『Hot Pink』に入っていた「Say So」でTikTok経由の大ヒットを起こし、そのまま本物のポップスターになっていきました。
以降のキャリアは、ジャンルの行き来そのものが物語になっています。2021年の『Planet Her』でポップスの中心に立ち、2023年の『Scarlet』では「自分はラッパーだ」と主張するように音を硬くし、2025年の『Vie』では1980年代寄りのポップに舵を切りました。作品ごとに評価が割れるタイプですが、そのたびに新しい入口を作っているアーティストです。
プロフィール
| 本名 | アマラ・ラトナ・ザンディール・ドラミニ |
| 生年月日 | 1995年10月21日 |
| 出身地 | アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス(ターザナ) |
| ジャンル | ポップ/ヒップホップ/R&B |
| レーベル | Kemosabe Records/RCA Records |
| デビュー | 2014年(EP『Purrr!』)/2018年(1stアルバム『Amala』) |
| 主な受賞 | グラミー賞1回受賞(通算19ノミネート) |
| ツアー | The Scarlet Tour(2023〜2024年)/Tour Ma Vie World Tour(2025〜2026年) |
両親の出自がそのまま音楽性にも出ていて、アフロビートやレゲトンのリズムを自然に取り込む一方、幼少期に触れた多様な文化の影響についても本人が語っています。
数字で見るDoja Cat
Hot 100で1位に立った曲は2曲あります。ニッキー・ミナージュを迎えた「Say So」のリミックス(2020年)と、単独名義の「Paint the Town Red」(2023年)です。ほかに「Kiss Me More」が3位、「Need to Know」が8位、「Woman」が7位と、トップ10に届いた曲が並びます。
グラミー賞は通算19ノミネートに対して受賞は1回。SZAを迎えた「Kiss Me More」が2022年の最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスを獲得しました。『Hot Pink』の時期には最優秀新人とレコード・オブ・ザ・イヤーにもノミネートされています。アルバムは『Planet Her』がBillboard 200で2位、『Scarlet』『Vie』がともに4位です。
Doja Catのおすすめ曲・アルバム
ここからは、彼女の名前を広めた1曲から最新作まで発表順にたどりながら、それぞれの代表曲を1曲ずつ取り上げていきます。
ブレイクのきっかけ|『Mooo!』(2018年)
1stアルバム『Amala』(2018年3月30日)は、発表当時ほとんど話題になりませんでした。その5か月後、彼女の名前を世界に知らせたのはアルバムの曲ではなく、思いつきで作った1本の動画でした。
『Mooo!』
2018年8月に発表された曲です。牛の柄の衣装と、ノートパソコンの前で撮ったような手作りの映像で、インターネット上で爆発的に拡散しました。チャートの実績はほとんどありませんが、彼女のキャリアはこの曲から始まっています。
「私は牛」と繰り返すだけのふざけた曲ですが、ラップとしての言葉の運びは最初からしっかりしています。のちの洗練された作品からは想像しづらい荒っぽさで、いま聴くと出発点としての面白さがあります。
2nd Album『Hot Pink』(2019年)
2019年11月7日リリースの2作目です。発売直後の反応は穏やかでしたが、収録曲がTikTokで次々に火を吹き、半年後の2020年5月にBillboard 200で最高9位まで上がるという、いまの時代らしい伸び方をしました。
内容はポップ、R&B、ヒップホップを行き来する12曲で、彼女の「歌えるラッパー」としての形がここで固まります。2021年のグラミー賞では最優秀新人、レコード・オブ・ザ・イヤー、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンスの3部門にノミネートされました。
『Say So』
2020年1月17日にシングルカット。TikTokのユーザーが作ったダンスが引き金となって伸び続け、Hot 100で5位。同年5月1日に発表されたニッキー・ミナージュ参加のリミックスで、ついに1位を獲得しました。彼女にとって初の全米首位曲です。
ディスコ調のギターとベースで進む曲で、レトロな音作りが徹底されています。「言いたいことがあるなら言ってよ」というもどかしさを軽やかに歌う曲で、彼女の代表曲として真っ先に挙がる1曲です。
『Streets』
2021年2月16日にシングルカット。TikTokの「シルエット・チャレンジ」で使われたことをきっかけに、リリースから1年以上経ってHot 100のトップ20に入りました。
ポール・アンカの曲を引用した重く沈んだトラックで、去っていった相手を探し歩く未練を歌います。「Say So」の明るさとは対照的な、彼女の暗い側を代表する曲です。
『Juicy』
2019年8月15日、タイガを迎えたリミックスとしてシングル化され、Hot 100で41位。『Hot Pink』に向かう流れを作った曲です。
自分の体を肯定する内容を、跳ねるビートと甘いフックで歌う曲。ミュージックビデオの色彩設計も含めて、この時期の彼女のイメージを決めた1曲になりました。
収録曲
- Cyber Sex
- Won't Bite (featuring Smino)
- Rules
- Bottom Bitch
- Say So
- Like That (featuring Gucci Mane)
- Talk Dirty
- Addiction
- Streets
- Shine
- Better than Me
- Juicy (with Tyga)
3rd Album『Planet Her』(2021年)
2021年6月25日リリースの3作目です。初週10万9,000ユニットでBillboard 200の2位に入り、彼女の代表作として最も広く聴かれている作品になりました。
ポップ、ヒップホップ、R&Bを軸に、アフロビートやレゲトンのリズムまで取り込んだ14曲。ザ・ウィークエンド、アリアナ・グランデ、ヤング・サグ、SZA、JIDと客演も豪華で、それぞれの相手に合わせて歌い方を変えられる器用さが全面に出ています。デラックス版はグラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーと最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムにノミネートされました。
『Kiss Me More』
2021年4月9日リリース、SZAを迎えた曲です。Hot 100で3位まで上がり、2022年のグラミー賞で最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスを受賞しました。彼女にとって唯一のグラミー受賞曲です。
軽やかなディスコ調のトラックで、二人の声質の違いがそのまま曲の起伏になっています。アメリカのチャート史で、女性だけによるトップ10ヒットとしては最長のチャートインを記録した曲でもあります。
『Need to Know』
2021年8月31日リリース、Hot 100では8位。SF的な世界観のミュージックビデオも話題になりました。
低音のシンセだけで進む、隙間の多いトラックが特徴です。歌もラップも抑えた声で通していて、彼女の曲のなかでは音数がもっとも少ない部類。踊るためではなく、質感を楽しむ曲です。
『Woman』
2021年10月1日リリース、Hot 100で7位。アルバムの1曲目に置かれた曲です。
アフロビートのリズムを取り入れた曲で、「女性であること」を讃える内容を全面に出しています。父のルーツである南アフリカの音楽的な要素と、アメリカのポップスの作りが自然に混ざっている1曲です。
収録曲
- Woman
- Naked
- Payday (featuring Young Thug)
- Get Into It (Yuh)
- Need to Know
- I Don't Do Drugs (featuring Ariana Grande)
- Love to Dream
- You Right (with the Weeknd)
- Been Like This
- Options (featuring JID)
- Ain't Shit
- Imagine
- Alone
- Kiss Me More (featuring SZA)
4th Album『Scarlet』(2023年)
2023年9月22日リリースの4作目です。初週7万2,000ユニット(うち実売6,000枚)でBillboard 200の4位。2024年4月5日には7曲を追加したデラックス版『Scarlet 2 Claude』も出ています。
この作品でいちばん大きいのは、ポップスからの明確な離脱です。前作までのきらびやかな音を捨て、1990年代のヒップホップを参照した硬いトラックにラップを乗せる方向へ振り切りました。「自分はポップスターではなくラッパーだ」という主張が、音と歌詞の両方から出ている作品で、批判への応答が主題になった曲も複数あります。
『Paint The Town Red』
2023年8月4日リリース。Hot 100で1位を獲得し、彼女にとって単独名義では初の全米首位となりました。
ディオンヌ・ワーウィックの「Walk On By」を引用した、ゆったりしたトラックが土台です。「嫌われようが構わない」という開き直りを淡々とラップしていて、『Scarlet』の姿勢を最初に示した曲になりました。
『Agora Hills』
2023年9月22日、アルバムと同時に発表されました。Hot 100のトップ10に入り、アルバムからの2枚目のヒットになりました。
曲名は彼女が育ったアゴーラヒルズから。硬派なアルバムのなかでは例外的に甘い曲で、恋人を自慢したいという素直な感情を、2000年代のR&Bを思わせる音に乗せています。
『Attention』
2023年6月16日にプロモーショナル・シングルとして発表され、Hot 100では31位。タヌ・ムイノが監督したミュージックビデオも公開されました。
外見の変化やSNSでの言動をめぐる批判に、正面から答えた曲です。「心配しているふり」をする相手を突き放す内容で、この時期に彼女が置かれていた状況をそのまま記録した1曲だといえます。
収録曲
- Paint the Town Red
- Demons
- Wet Vagina
- Fuck the Girls (FTG)
- Ouchies
- 97
- Gun
- Go Off
- Agora Hills
- Can't Wait
- Often
- Love Life
- Skull and Bones
- Attention
- Balut
5th Album『Vie』(2025年)
2025年9月26日リリースの最新作です。初週5万7,000ユニット(うち実売2万6,000枚)でBillboard 200の4位、全英アルバムチャートでは5位。プロデュースにはジャック・アントノフらが参加しています。
音は再び大きく変わりました。1980年代を意識した作りで、ファンクポップ、ディスコ、ダンスポップの要素が前に出ていて、テーマは愛や恋愛。『Scarlet』の硬さから一転して、聴きやすさに戻ってきた作品です。SZAを迎えた「Take Me Dancing」も収録されています。
『Jealous Type』
2025年8月21日リリースの先行シングルです。同年のMTV VMAでも披露されました。
80年代のシンセポップをそのまま持ち込んだような曲で、跳ねるベースと分厚いコーラスが特徴です。嫉妬深い自分を認めてしまう内容を、あくまで踊れる音でやってしまうところに彼女らしさがあります。
『Gorgeous』
2025年10月10日リリースの2枚目のシングルです。
ディスコ寄りのトラックで、アルバムの華やかな側を代表する曲。ラップの比重を下げ、歌で通す構成になっていて、『Vie』が目指した方向がはっきり出ています。
収録曲
- Cards
- Jealous Type
- Aaahh Men!
- Couples Therapy
- Gorgeous
- Stranger
- All Mine
- Take Me Dancing (featuring SZA)
- Lipstain
- Silly! Fun!
- Acts of Service
- Make It Up
- One More Time
- Happy
- Come Back
日本との関わり|渋谷のライブハウスからKアリーナ横浜へ
ドージャ・キャットの初来日は2019年9月24日、東京の渋谷WWW Xでした。「Mooo!」で名前が知られ始めた直後のタイミングで、数百人規模のライブハウスでの公演です。「Say So」が世界的なヒットになる、ほんの数か月前の話でした。
次の来日までは6年が空きました。2025年12月15日、最新作『Vie』を携えた「Tour Ma Vie World Tour」の日本公演として、Kアリーナ横浜で一夜限りの単独公演が行われています。ライブハウスからアリーナへ——同じアーティストの日本公演としては、なかなか見ないスケールの変化です。
この「Tour Ma Vie World Tour」は2025年11月18日のオークランド公演から始まり、2026年12月1日のニューヨーク公演まで続く長期のツアーです。日本公演はその序盤にあたる1本でした。
賛否と隣り合わせのキャリア
ドージャ・キャットは、作品と同じくらい発言や振る舞いが話題になるアーティストです。SNSでの直接的な物言い、ファンとの距離の取り方、外見の大きな変化。いずれも繰り返し議論の的になってきました。2023年の『Scarlet』は、そうした批判の渦のなかで作られた作品で、「Attention」のように批判への応答そのものを主題にした曲も収められています。
本人がこだわり続けているのは、「ポップスター」ではなく「ラッパー」として見られることのようです。ポップスとしてもっとも成功した『Planet Her』のあとに、あえて売れ線から離れた『Scarlet』を出したのは、その意思表示だと受け取られました。実際にセールスは前作より落ちましたが、「Paint the Town Red」で全米1位を獲ったのもこの作品です。
そして2025年の『Vie』では、また踊れるポップスに戻ってきました。方向転換のたびに古いファンが離れ、新しいファンが入る。その繰り返しでキャリアを伸ばしてきたという点が、彼女のいちばん特異なところかもしれません。
まとめ|まずはこの3曲から
ドージャ・キャットは、インターネットのおもしろ動画から出発して、全米1位とグラミー賞、そしてアリーナ規模のツアーまでたどり着いたアーティストです。作品ごとに音を作り替えるため、どの時期を好きになるかは人によってまったく違います。
これから聴き始めるなら、まずは「Say So」「Kiss Me More」「Paint The Town Red」の3曲から。レトロなポップス、コラボでの華やかさ、そしてラッパーとしての顔が、それぞれ1曲でつかめます。ここが引っかかったなら「Streets」「Woman」まで進んでみてください。
アルバムを1枚選ぶなら、間口の広さで『Planet Her』。ラップを聴きたいなら『Scarlet』、80年代寄りのポップスが好みなら最新作の『Vie』が向いています。出発点の荒っぽさを知りたい人は、ぜひ「Mooo!」の動画から入ってください。


