Daft Punk(ダフト・パンク)は、フランス・パリ出身の2人組です。1993年から2021年までの活動で、ダンスミュージックの位置そのものを動かしてしまったユニットだといえます。ヘルメットをかぶったロボットの姿、生演奏とサンプリングの融合、そしてアルバムごとに設計を変える徹底ぶり。どれも後続に真似され続けています。
音楽的な核は、ハウスとディスコの再解釈です。1970年代のファンクやディスコのレコードを刻んで作り直し、そこに機械の声を重ねる。ただし2013年の『Random Access Memories』では逆向きに、生のミュージシャンを集めてスタジオで録音するという方法をとりました。同じ人たちが正反対のやり方で名盤を作れる、という点が彼らの底の深さです。
この記事では、ダフト・パンクがどんなユニットだったのかを整理したうえで、4枚のオリジナルアルバムとサウンドトラックを発表順にたどりながら、代表曲を1曲ずつ紹介していきます。「Get Lucky」しか知らない、という方にこそ読んでほしい内容です。
Daft Punk(ダフト・パンク)とは?
酷評されたバンド名を、そのまま名乗った2人
メンバーは、トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストの2人。出会いは1987年、パリのリセ・カルノーという中等学校でした。1992年には友人を加えた3人でDarlin’(ダーリン)というインディーロックバンドを組みますが、半年で解散しています。
バンド名の由来は、その解散の一因になった批評です。イギリスの音楽誌『メロディ・メイカー』でデイヴ・ジェニングスが、Darlin’の音楽を「a daft punky thrash(間抜けなパンクの騒音)」と切り捨てました。2人はこれを面白がり、そのまま新しい名前として採用します。1993年、Daft Punkが始まりました。
1997年の『Homework』は、フレンチハウスという言葉を世界に定着させた作品になりました。その後1999年ごろから公の場ではロボットの姿で通すようになり、ヘルメットが完成した姿で登場したのは2001年の『Discovery』からです。バンガルテルは、焦点を音楽に向けたかったこと、匿名性を保って私生活を守りたかったことを理由に挙げています。
2005年の『Human After All』はいったん酷評されましたが、2006年から2007年のライブツアー「Alive」——ピラミッド型のステージで知られるあの公演——を経て評価が反転します。2010年にはディズニー映画『トロン:レガシー』の音楽を担当し、2013年の『Random Access Memories』でグラミー賞の主要2部門を獲得。そして2021年2月22日、解散を発表しました。
プロフィール
| メンバー | トーマ・バンガルテル/ギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト |
| 出身地 | フランス・パリ |
| 活動期間 | 1993年〜2021年 |
| ジャンル | フレンチハウス/エレクトロニック/ディスコ |
| デビュー | 1997年(1stアルバム『Homework』) |
| オリジナルアルバム | 4枚(Homework/Discovery/Human After All/Random Access Memories) |
| 主な受賞 | グラミー賞(2014年に5部門を含む) |
| 解散 | 2021年2月22日 |
公の場ではほぼ一貫してロボットの姿で通し、インタビューにも顔を出さないという態度を最後まで崩しませんでした。音楽以外の情報を極端に絞ったことが、かえって神話性を高めた例だといえます。
数字で見るDaft Punk
最大の成功は2013年の『Random Access Memories』です。アメリカで初週33万9,000枚、イギリスで16万5,091枚を売り上げ、両国のアルバムチャートで1位。2014年のグラミー賞では、アルバム・オブ・ザ・イヤーとレコード・オブ・ザ・イヤーを含む5部門を受賞しました。
シングルでは「Get Lucky」がBillboard Hot 100で5週連続の2位、全英シングルチャートでは4週にわたって1位。当時のSpotifyにおける1日あたりの再生回数の記録も更新しました。なお彼らが関わった曲でHot 100の1位に届いたのは、2016年にザ・ウィークエンドへ客演した「Starboy」のみです。2009年には、ライブアルバム『Alive 2007』が最優秀エレクトロニック/ダンス・アルバムを受賞しています。
Daft Punkのおすすめ曲・アルバム
ここからは、4枚のオリジナルアルバムとサウンドトラックを発表順にたどりながら、それぞれの代表曲を1曲ずつ取り上げていきます。
1st Album『Homework』(1997年)
1997年1月20日リリースのデビューアルバムです。全英アルバムチャートで8位、Billboard 200では150位という数字でしたが、影響力はその数字とまったく比例していません。フレンチハウスというジャンルを世界に知らせ、ダンスミュージックの見方を変えた1枚として語られ続けています。
内容は、ローランドの機材でひたすら反復を組み上げていくストイックなハウスです。当時のユーロダンスの型から明確に外れていて、荒く歪んだ質感が全編を覆っています。16曲がひと続きのDJミックスのように並んでいる構成も特徴です。
『Da Funk』
1995年5月8日リリース。アメリカのHot Dance/Club Playチャートで1位、全英とフランスで7位に入り、彼らの名前を最初に広めた曲です。
歪んだシンセのリフが延々と続くだけの構成なのに、一度聴くと忘れられません。ミュージックビデオはスパイク・ジョーンズが監督し、犬の頭を持った男がニューヨークを歩くという内容。曲そのものと関係のない短編映画のような作りで、これも大きな話題になりました。
『Around The World』
1997年4月7日リリース。全英5位、Hot 100では61位、Hot Dance/Club Playでは1位。彼らの代表曲のひとつです。
「Around the world」というフレーズだけを144回繰り返す曲。ミシェル・ゴンドリーが監督したミュージックビデオは、楽器のパートごとに違う扮装のダンサーを割り当てて円形のセットで踊らせるという仕掛けで、音楽の構造をそのまま映像にした例として今も引かれます。
収録曲
- Daftendirekt
- WDPK 83.7 FM
- Revolution 909
- Da Funk
- Phoenix
- Fresh
- Around the World
- Rollin' & Scratchin'
- Teachers
- High Fidelity
- Rock'n Roll
- Oh Yeah
- Burnin'
- Indo Silver Club
- Alive
- Funk Ad
2nd Album『Discovery』(2001年)
2001年3月12日リリースの2作目で、多くの人が彼らの最高傑作として挙げる作品です。全英2位、Billboard 200では23位。前作のストイックなハウスから一転して、ディスコやガレージハウス、R&Bの要素を取り込んだ、きらびやかでポップな音になりました。
もうひとつ特別なのが、日本との関わりです。このアルバムの全曲を使ったアニメ映画『インターステラ5555』が、松本零士の監修で制作されました。「One More Time」のミュージックビデオから始まった企画が、最終的に長編映画に発展したという流れです。
『One More Time』
2000年11月13日リリース。フランスで1位、アメリカのHot Dance/Club Playでも1位を獲得しました。ボーカルはロマンソニーです。
加工されたボーカルとホーンのループで、ひたすら祝祭感を積み上げていく曲。中盤で音が引いてから戻ってくる展開が有名で、クラブでこの瞬間に何が起きるかを知っている人には特別な意味を持つ曲になっています。松本零士が手がけたアニメーションのビデオもここから始まりました。
『Harder, Better, Faster, Stronger』
2001年10月13日リリース、全英25位。エドウィン・バードソングが1979年に発表した「Cola Bottle Baby」をサンプリングした曲です。のちにカニエ・ウェストが「Stronger」(2007年)でこの曲を大々的に使い、2008年のグラミー賞では2組が共演。そのライブ版は2009年に最優秀ダンス・レコーディング賞を受賞しました。
ボコーダーで加工された声が「もっと強く、もっと速く」と命令のように繰り返される曲です。歌詞は単語の羅列に近いのに、聴き終わったあとには妙な高揚感が残ります。ヒップホップ側から彼らに入ってきた人がいちばん多い曲かもしれません。
『Digital Love』
2001年6月11日リリース、全英14位。ジョージ・デュークが1979年に発表した「I Love You More」をサンプリングした、アルバムの中心曲のひとつです。
夢の中の恋を歌う、彼らの曲のなかでもっとも甘い1曲。終盤にはギターソロが入ります。バンガルテルによれば、これは誰かが弾いたものではなく複数の素材をシーケンサーで組み上げたもの。「いまは誰もソロを入れないが、入れたかった」という発言も残っています。
収録曲
- One More Time
- Aerodynamic
- Digital Love
- Harder, Better, Faster, Stronger
- Crescendolls
- Nightvision
- Superheroes
- High Life
- Something About Us
- Voyager
- Veridis Quo
- Short Circuit
- Face to Face
- Too Long
3rd Album『Human After All』(2005年)
2005年3月14日リリースの3作目です。全英10位、Billboard 200では98位、アメリカのダンス/エレクトロニック・アルバムチャートでは1位。制作期間は6週間で、そのうち録音に使ったのは2週間に満たなかったと語られています。
発表当時の評価は厳しく、Metacriticのスコアは57点。「凡庸なアイデアを引き延ばした喜びのない作品」といった評も出ました。ところが2006年から2007年のツアーでこのアルバムの曲が組み替えられて披露されると、評価がひっくり返ります。いまでは彼らの作品のなかで最も再評価が進んだ1枚です。
『Robot Rock』
2005年のシングル。ブレイクウォーターが1980年に発表した「Release the Beast」をサンプリングした曲です。
ギターのリフをひたすら反復するだけの構成で、ロックとハウスの区別を無意味にしてしまう1曲。ミュージックビデオでは実際に2人がヘルメット姿で演奏する姿が映され、ロボットという設定が音に直結していることが示されました。
『Technologic』
2005年のシングル。「Buy it, use it, break it, fix it」と動詞を並べ続ける曲で、バスタ・ライムスの「Touch It」(2006年)にサンプリングされ、2024年にはチャーリーXCXの「Guess」でも引用されました。
不気味な人形が命令を読み上げるようなミュージックビデオも含めて、テクノロジーへの皮肉が全面に出た曲です。当時は不評でしたが、いまではこのアルバムを代表する曲として扱われています。
収録曲
- Human After All
- The Prime Time of Your Life
- Robot Rock
- Steam Machine
- Make Love
- The Brainwasher
- On/Off
- Television Rules the Nation
- Technologic
- Emotion
サウンドトラック『TRON: Legacy』(2010年)
2010年12月6日、ディズニー映画『トロン:レガシー』のサウンドトラックが発表されました。オーケストラと電子音を組み合わせた劇伴で、彼ら自身も映画本編のクラブのシーンにDJとして出演しています。
ダンスフロアのための音楽ではなく、映画のための音楽として作られた作品です。ここでオーケストラを本格的に扱った経験が、次作『Random Access Memories』の生演奏志向につながったと見る人も多くいます。
『Derezzed』
サウンドトラックのなかでもっとも知られた曲です。1分半ほどの短い曲ですが、映画の予告編などで繰り返し使われました。
硬いシンセのリフだけで駆け抜ける曲で、劇伴のなかでは例外的にダンスミュージックの顔をしています。オーケストラ主体のアルバムの中で、この曲だけが彼らの本来の姿に近い場所にあります。
4th Album『Random Access Memories』(2013年)
2013年5月17日リリースの4作目。アメリカで初週33万9,000枚、イギリスで16万5,091枚を売り上げ、両国で1位を獲得しました。2014年のグラミー賞ではアルバム・オブ・ザ・イヤー、最優秀ダンス/エレクトロニカ・アルバム、最優秀エンジニアド・アルバムを受賞しています。
この作品で彼らは、サンプリングをほぼ捨てました。代わりに集めたのは生身のミュージシャンです。ディスコの立役者ナイル・ロジャース、シンセサイザーの先駆者ジョルジオ・モロダー、ファレル・ウィリアムス、ストロークスのジュリアン・カサブランカス、作曲家のポール・ウィリアムズ。ダンスミュージックの歴史そのものをスタジオに呼び集めて録音した1枚だといえます。2023年5月12日には、未発表音源を含む35分の追加音源を収めた10周年版も出ています。
『Get Lucky』
2013年4月19日リリース。Hot 100で5週連続の2位、全英シングルチャートでは4週にわたって1位。当時のSpotifyの1日再生記録も更新し、2014年のグラミー賞でレコード・オブ・ザ・イヤーと最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンスを受賞しました。
ボーカルはファレル・ウィリアムス、あのギターはナイル・ロジャース。派手な展開を作らず、心地よいコード進行をひたすら回し続けるという構成で、2010年代を代表する1曲になりました。彼らの曲としては、いちばん多くの人が知っている曲でしょう。
『Lose Yourself to Dance』
2013年8月13日リリース。「Get Lucky」と同じくファレル・ウィリアムスとナイル・ロジャースが参加した曲です。
手拍子と反復するギターだけで押していく、極端に音数の少ない曲。「Get Lucky」の姉妹曲のような位置にありますが、こちらのほうがフロア寄りで、生演奏をループさせるという発想が分かりやすく出ています。
『Instant Crush』
2013年11月22日リリース。ザ・ストロークスのジュリアン・カサブランカスがボーカルを務めた曲です。
ロックバンドのボーカリストの声を加工して、機械の声と生身の声の中間に置くという実験です。切ないメロディと人形劇のようなミュージックビデオが印象的で、アルバムのなかでは異物のように光っています。
収録曲
- Give Life Back to Music
- The Game of Love
- Giorgio by Moroder
- Within
- Instant Crush (featuring Julian Casablancas)
- Lose Yourself to Dance (featuring Pharrell Williams)
- Touch (featuring Paul Williams)
- Get Lucky (featuring Pharrell Williams and Nile Rodgers)
- Beyond
- Motherboard
- Fragments of Time (featuring Todd Edwards)
- Doin' It Right (featuring Panda Bear)
- Contact
客演|ザ・ウィークエンドとの仕事
自身の作品以外で、彼らの名前がもっとも大きく出たのがこの曲です。
『Starboy』
2016年、ザ・ウィークエンドのアルバム『Starboy』の表題曲として発表されました。Billboard Hot 100で1位を獲得しており、ダフト・パンクが関わった曲としては唯一の全米首位曲です。
暗く沈んだシンセと硬いビートで進む曲で、彼ら自身のアルバムの音とはまったく違います。同じアルバムの「I Feel It Coming」も2人が手がけていて、こちらは『Random Access Memories』に近い明るい質感です。解散前の最後期の仕事として重要な2曲です。
日本との関わり|松本零士との『インターステラ5555』
ダフト・パンクと日本の関係を語るうえで外せないのが、松本零士との仕事です。『Discovery』の全曲をそのまま音楽に使ったアニメ映画『インターステラ5555(Interstella 5555: The 5tory of the 5ecret 5tar 5ystem)』が、2003年5月に公開されました。松本零士の画業50周年記念作品として制作されたもので、宇宙のバンドが地球に連れてこられるという物語が、セリフなしで最初から最後まで音楽だけで進みます。
企画の出発点は「One More Time」のミュージックビデオでした。そこから数本のビデオが作られ、最終的にアルバム1枚ぶんの長編になったという経緯です。海外のミュージシャンが日本のアニメーション作家と組んだ例として、いまでも最大級の成功例に挙げられます。
ライブでは、2006年8月のSUMMER SONIC ’06に出演しました。8月12日の東京(千葉)、13日の大阪で、ともにマウンテン・ステージのヘッドライナー。ピラミッド型のステージを使ったあの「Alive」ツアーの時期にあたり、入場規制がかかるほどの人が集まった公演として語り継がれています。
2021年の解散と、その後
2021年2月22日、ダフト・パンクは自身のYouTubeチャンネルに「Epilogue」と題した動画を公開しました。2006年の自主製作映画『Electroma』の場面を使ったもので、ロボットの1人が爆発し、もう1人が夕日のなかへ歩いていく——そこに「1993-2021」の文字が出て、「Touch」の一部が流れるという内容です。理由は説明されませんでした。
その後、トーマ・バンガルテルは2023年4月にバレエのための管弦楽作品『Mythologies』を発表しています。彼はAIをめぐる懸念にも触れながら、「このキャラクターは好きだが、いま自分がいちばんなりたくないものはロボットだ」と語りました。技術への向き合い方が変わったことが、解散の背景にあったことを示す発言です。
一方で、2人の作品の整理は続いています。2022年2月に『Homework』の25周年版、2023年5月に『Random Access Memories』の10周年版が発表されました。新作は出ませんが、過去の作品が新しい形で聴けるようになっている状態です。
まとめ|まずはこの3曲から
ダフト・パンクは、ダンスミュージックを「クラブの中の音楽」から引っ張り出して、ポップスの中心に置いてしまったユニットです。ロボットの姿で顔を隠し続けたことも、結果として音楽そのものに注目を集める仕掛けとして機能しました。
これから聴き始めるなら、まずは「Get Lucky」「One More Time」「Around The World」の3曲から。生演奏に振り切った晩年、きらびやかな中期、ストイックな初期が、それぞれ1曲でつかめます。ここが引っかかったなら「Harder, Better, Faster, Stronger」「Digital Love」まで進んでみてください。
アルバムを1枚選ぶなら、まずは『Discovery』。松本零士のアニメ映画『インターステラ5555』と合わせて体験すると、この作品の面白さが倍になります。ダンスミュージックの歴史をたどりたいなら『Random Access Memories』、荒々しい出発点を知りたいなら『Homework』が向いています。


