今回はBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)を特集します。
10代のうちにグラミー賞の主要4部門を独占し、その後もアカデミー賞を2度受賞。2000年代生まれのアーティストとして、いまや押しも押されもせぬ存在です。
この記事では、彼女がどんなアーティストなのかという基本から、EP・アルバム別のおすすめ曲、映画のために書かれた代表曲、受賞歴までをまとめて紹介します。
Billie Eilish(ビリー・アイリッシュ)ってどんなアーティスト?
ビリー・アイリッシュは、2001年12月18日生まれのアメリカ・ロサンゼルス出身のシンガーソングライターです。本名はBillie Eilish Pirate Baird O’Connell(ビリー・アイリッシュ・パイレート・ベアード・オコンネル)。俳優業を持つ両親のもと、ホームスクーリングで育ちました。
2015年、当時13歳のときにダンスの授業のために書いた『ocean eyes』をSoundCloudに投稿したところ、口コミで一気に広まります。翌2016年に正式リリースされ、ダークルームおよびインタースコープ・レコードと契約しました。
兄フィニアスとの2人だけの制作
ビリー・アイリッシュを語るうえで欠かせないのが、兄のFINNEAS(フィニアス・オコンネル)の存在です。楽曲のほとんどは彼女とフィニアスの共作で、プロデュースもフィニアスが担当しています。
制作場所も長らくロサンゼルスの自宅にある、フィニアスの寝室のような小さなスタジオでした。大人数のチームで作り込むのが当たり前だった2010年代のポップスにおいて、兄妹2人だけで世界的なヒット曲が作られたという事実は、後に続く多くのアーティストに影響を与えています。
サウンドの特徴は、とにかく余白が多いことです。ビートも音数も最小限に絞り、ささやくような歌声を耳元に置く。派手さで押し切るのではなく、静けさで引き込むタイプの音楽です。
史上2人目のグラミー賞主要4部門独占
2020年1月の第62回グラミー賞で、ビリー・アイリッシュは最優秀レコード賞・最優秀楽曲賞・最優秀アルバム賞・最優秀新人賞の主要4部門をすべて受賞しました。1981年のクリストファー・クロス以来2人目、女性としては史上初の快挙です。
受賞時18歳。最優秀アルバム賞と最優秀レコード賞の史上最年少受賞者でもあります。兄フィニアスもこの年、史上最年少で最優秀プロデューサー賞を受賞しました。
アルバム別のおすすめ人気曲
ビリー・アイリッシュの作品を、リリース順に紹介していきます。
EP『dont smile at me』(2017年)
デビューEP(ミニアルバム)。話題になった『ocean eyes』のほか、後の作風につながるダークな曲が並びます。
アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアのチャートでトップ15にランクインしました。
EP『dont smile at me』収録曲(通常盤)
- COPYCAT
- idontwannabeyouanymore
- my boy
- watch
- party favor
- bellyache
- ocean eyes
- hostage
- &burn(with Vince Staples)
ocean eyes
すべてはこの曲から始まりました。もともとは兄フィニアスが自身のバンド用に書いた曲を、ダンスの発表用にビリーが歌ったもの。ビルボードのシングルチャートでは最高84位でしたが、彼女の名前を世に出すきっかけになりました。
bellyache
アコースティックギターの軽やかな響きに、殺人を犯した人物の独白を乗せるという曲。かわいらしい音と物騒な歌詞のギャップは、この時点ですでに彼女らしさが確立されています。全英シングルチャートで79位を記録しました。
1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(2019年)
全世界を巻き込んだデビューフルアルバム。全米・全英を含む各国のアルバムチャートで1位を獲得しました。
収録14曲のうち『goodbye』を除く13曲がビルボードのシングルチャートに同時ランクインするという記録も残しています。シングルヒットだけでなく、1枚を通して聴いてほしい作品です。
1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』収録曲
- !!!!!!!
- bad guy
- xanny
- you should see me in a crown
- all the good girls go to hell
- wish you were gay
- when the party's over
- 8
- my strange addiction
- bury a friend
- ilomilo
- listen before i go
- i love you
- goodbye
bad guy
彼女の名を世界中に知らしめた代表曲。スカスカのベースラインとささやき声だけで進み、最後に曲そのものがひっくり返る構成が強烈です。
ビルボードのシングルチャートで1位を獲得。21世紀生まれのアーティストとして初の全米1位となり、米国レコード協会からダイヤモンド認定も受けています。当時19週連続1位を走っていた『Old Town Road』の記録を止めたのも、この曲でした。
when the party’s over
重ねた歌声とピアノだけで作られた、静かなバラード。黒い液体を飲み干して涙が黒く流れ落ちるミュージックビデオも印象的で、彼女の代名詞のような1曲になっています。
bury a friend
「ベッドの下のモンスター」の視点から書かれた曲。歯医者のドリルの音までサンプリングに使われていて、アルバム全体のダークな世界観を決定づけました。
wish you were gay
自分を好きになってくれない相手について「いっそ君がゲイだったらよかったのに」と歌う曲。当時この表現をめぐって議論も起きましたが、本人は「相手を傷つける意図はまったくなかった」と説明しています。
2ndアルバム『Happier Than Ever』(2021年)
コロナ禍での内省から生まれた2枚目のアルバム。全曲を兄フィニアスがプロデュースし、演奏もすべて1人で手掛けています。
1stのトラップ寄りのビートから離れ、ジャズの香りがする落ち着いたアレンジが中心。有名になったことの代償を歌った曲が並び、作品としての手触りが大きく変わりました。全米・全英を含む複数の国でアルバムチャート1位を獲得しています。
2ndアルバム『Happier Than Ever』収録曲
- Getting Older
- I Didn't Change My Number
- Billie Bossa Nova
- my future
- Oxytocin
- GOLDWING
- Lost Cause
- Halley's Comet
- Not My Responsibility
- OverHeated
- Everybody Dies
- Your Power
- NDA
- Therefore I Am
- Happier Than Ever
- Male Fantasy
Happier Than Ever
アルバムのタイトル曲。ウクレレの弾き語りのように静かに始まり、後半でギターとドラムが雪崩れ込んで叫びに変わります。彼女の曲の中でも、感情の振れ幅が最も大きい1曲です。
Therefore I Am
アルバムからのシングルとしては最高位で、ビルボードのシングルチャートで2位を記録。閉店後のショッピングモールを1人で走り回るミュージックビデオも話題になりました。
Your Power
アコースティックギター1本で歌われるバラード。力を持つ立場の人間がそれを濫用することへの怒りが、静かな声のまま突きつけられます。ビルボードのシングルチャートで10位を記録しました。
my future
ロックダウン中の2020年に発表された曲。前半のジャズバラードから後半でネオソウル風に変化します。「これからの自分に恋してる」という前向きな内容で、当時の彼女の心境がそのまま出ている1曲です。ビルボードのシングルチャートで6位を記録しました。
3rdアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』(2024年)
現時点での最新スタジオアルバム。全10曲を通して1つの流れになるよう作られていて、シングルを先行させずアルバム全体で一気に届ける形が取られました。
20を超える国のアルバムチャートで1位を獲得。全米では2位でしたが、収録された10曲すべてがビルボードのシングルチャート40位以内に同時ランクインするという結果を残しています。
3rdアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』収録曲
- SKINNY
- LUNCH
- CHIHIRO
- BIRDS OF A FEATHER
- WILDFLOWER
- THE GREATEST
- L'AMOUR DE MA VIE
- THE DINER
- BITTERSUITE
- BLUE
BIRDS OF A FEATHER
アルバムの中でも突出して聴かれた曲。柔らかいシンセに乗せて、ずっとそばにいたいという気持ちをまっすぐ歌います。
ビルボードのグローバル・チャートで1位、全米シングルチャートで2位を記録し、IFPIの集計では2024年に世界で4番目に売れた曲になりました。リリースから長く聴かれ続け、2025年の年間チャートでも5位に入っています。
LUNCH
アルバムと同時に発表された先行シングル。歪んだベースが引っ張るファンク寄りの曲で、女性への欲望をストレートに歌っています。
CHIHIRO
日本のリスナーには特に刺さる1曲。タイトルはスタジオジブリ『千と千尋の神隠し』の主人公・荻野千尋から取られています。本人も「あの映画は自分のお気に入りのひとつで、この曲はそこから緩やかに着想を得ている。千尋の視点と自分の視点が混ざっている」と語っています。
水に沈んだ線路を走る電車のシーンが特に印象に残っていたそうです。アルバムのリリース週にビルボードのシングルチャートで12位に入りました。
WILDFLOWER
失恋した友人を慰めていたはずが、その相手の元恋人と付き合うことになってしまう——という、居心地の悪さをそのまま歌ったフォークポップのバラード。
2026年2月の第68回グラミー賞で最優秀楽曲賞を受賞しました。この受賞により、ビリーとフィニアスは同賞の史上最多受賞者となっています。
THE GREATEST
尽くしても報われなかった関係について「私はよくやったほうでしょ」と歌う曲。抑えた歌い出しから終盤にかけて声が張り上がっていく構成で、ライブでも大きな聴きどころになっています。
映画・ドラマのために書かれた代表曲
ビリー・アイリッシュは映像作品に提供した曲でも大きな結果を残しています。アカデミー賞歌曲賞は2度受賞していて、これは映画音楽の世界でも異例のことです。
lovely(feat. Khalid)
Netflixのドラマ『13の理由』シーズン2に使われて広まった、カリードとのデュエット曲。弦の響きと2人の声だけで進む、静かで重たい曲です。
実は私もこのドラマにハマっていました。自殺を題材にした重い内容ですが、一見の価値ありです。
No Time To Die(映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』主題歌)
2020年に発表された、007シリーズの主題歌。録音時17歳で、歴代のボンドのテーマを歌ったアーティストとしては史上最年少です。オーケストラのアレンジはハンス・ジマーが手掛けました。
全英シングルチャートで初登場1位を獲得。21世紀生まれのアーティストとして初の全英1位となりました。2022年のアカデミー賞では歌曲賞を受賞し、ビリーは21世紀生まれで初のアカデミー賞受賞者になっています。
What Was I Made For?(映画『バービー』)
2023年の映画『バービー』のために書かれた曲。「私は何のために作られたんだろう」という問いを、ピアノとささやき声だけで繰り返します。
イギリス、オーストラリア、アイルランドなどで1位を獲得。2024年のグラミー賞で最優秀楽曲賞を、同年のアカデミー賞で歌曲賞を受賞しました。映画のための曲がグラミー賞の最優秀楽曲賞を獲るのは、セリーヌ・ディオン『My Heart Will Go On』以来のことです。
everything i wanted
アルバムに属さない単独シングルとして2019年末に発表された曲。ビリーが見た悪夢と、兄フィニアスとの関係が題材になっています。
2021年のグラミー賞で最優秀レコード賞を受賞。彼女は2年連続でこの賞を手にしました。ミュージックビデオは本人が監督しています。
主な受賞歴
ビリー・アイリッシュがこれまでに受けた主な賞をまとめます。
グラミー賞/2020年・第62回で最優秀レコード賞(bad guy)、最優秀楽曲賞(bad guy)、最優秀アルバム賞(WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?)、最優秀新人賞の主要4部門を独占。2021年・第63回で最優秀レコード賞(everything i wanted)。2024年・第66回で最優秀楽曲賞(What Was I Made For?)。2026年・第68回で最優秀楽曲賞(WILDFLOWER)。
アカデミー賞/2022年・第94回で歌曲賞(No Time To Die)、2024年・第96回で歌曲賞(What Was I Made For?)。ノミネートされた2回とも受賞しています。
ゴールデングローブ賞/主題歌賞を2度受賞(No Time To Die、What Was I Made For?)。
ライブ・来日について
3rdアルバムを引っ提げた「Hit Me Hard and Soft: The Tour」は、2024年9月のカナダ・ケベックシティ公演で始まり、2025年11月のサンフランシスコ公演まで1年以上にわたって世界を回りました。
このツアーのマンチェスター公演を記録した3Dコンサート映画が、2026年5月に劇場公開されています。共同監督はビリー本人と、『タイタニック』『アバター』のジェームズ・キャメロン。同じ月にライブアルバムも発表されました。
日本公演は2025年8月16日・17日、さいたまスーパーアリーナで2days行われました。オープニングアクトは16日がYOASOBI、17日が藤井風。日本のアーティストを前座に迎えた点でも話題になった公演です。
ビリー・アイリッシュの魅力
ひとつは音の余白です。ビートも音数も削り込んで、ささやくような声を耳のすぐそばに置く。音量で押してくる曲が並ぶチャートの中で、彼女の曲だけ音量を下げても成立してしまう。この引き算のセンスが、いちばんの武器だと思います。
もうひとつは歌詞の率直さです。不安、嫉妬、罪悪感、有名になったことの息苦しさ。ふつうなら隠すような感情を、そのままの形で出してくる。同じものを抱えている人に深く届くのは、そのためでしょう。
そして変わり続けていること。ダークなトラップから始まり、ジャズ寄りの内省、そして今の柔らかいオルタナティブポップへと、アルバムごとに手触りを変えています。「10代の天才」として消費されずにここまで来られたのは、そのたびに音楽そのものを更新してきたからです。
全身を覆うオーバーサイズの服も、初期には「体型で判断されたくない」という理由から選ばれていました。後に本人はその選択も自分で更新していきますが、いずれにしても自分の見せ方を自分で決めてきた人だ、ということです。
まとめ
デビューアルバムの大ヒットだけで終わるのか——と当時は言われていましたが、答えははっきり出ました。グラミー賞の主要部門を何度も獲り、アカデミー賞を2度受賞し、アルバムを出すたびに音楽の中身を変えながら第一線に居続けています。
これから聴くなら、まずは『bad guy』と『BIRDS OF A FEATHER』の2曲から。1曲目で彼女がどうやって世界を掴んだかが分かり、2曲目でいまどこに立っているかが分かります。
そこから気に入ったら、ぜひアルバム単位で聴いてみてください。彼女の作品はどれも1枚を通して聴かれることを前提に作られていて、そこまで含めての作品です。





